モバイル・チャットと対面会話でのターンテイキングとフロアの運用の違い
この記事は 学生エンジニア Advent Calendar 11日目の記事です。
会話をしていると、会話者同士が同時に話してしまうこと、あったりしますよね。これを言語学的にはオーバーラップといいます。オーバーラップが起きたとき、誰が続けて話すか、という問題が瞬間的に生じます。例えば、実際の場で、面と向かって会話をしている場合、「あ、どうぞどうぞ、ごめんなさい」といった一言で相手に発話権を譲ったりしますね。では、モバイル上のコミュニケーション、例えばLINEなどでオーバーラップが生じたときって発話権は誰のものになる傾向にあるのでしょう?この点について、すこしばかり書いてみます。(ちなみにこれを題材にして卒論を書いていて、この記事はその途中経過報告にもなります。)
ターンテイキングとフロアとは
詳しくは、下記の別記事で定義や意味を書いているので、興味と時間があればぜひ読んでいただけると嬉しいです。ここではざっくりと説明をば。会話をしていると、話す人が変わりますよね。Aさんが話したあとにBさんが話したり。至って普通のことです。では、発話権がどのように会話参加者の内を移っているのか。話し手が変わるタイミングには、主に発話権を譲渡・奪取・保持という形があります。これらのことをターンテイキングと言います。要するに誰がいつどの形で発話権を手にしたか、ですね。
一方、フロアとは、会話を誰がリード(支配)しているかにフォーカスを当て、誰がいつどの形で発話権を手にしているかを意味します。ターンテイキングと似ていますが、若干定義が異なります。詳しくは以下の参考資料をみていただければと思います。
参考資料
モバイル・チャットの傾向を軸にフロアを考察
モバイル・チャット(主にLINEやFacebookのMessangerなど)での会話のやりとりと、実際のリアルの場での対面会話では、どのようにフロアが運用されているのか気になり、現在調べています。特に、オーバラップが生じた時にフォーカスを当て、観察して分析を進めているのですが、傾向としてわかったことがあります。対面会話では、オーバーラップの際に会話者同士が発話権を譲りあうか、双方が継続して話す傾向にあるのです。議論が白熱していると後者の傾向が強いですね。一方で、モバイルチャットでの会話ですと、オーバーラップが生じた場合、2つのパターンが見受けられました。1つ目に、続けざまに身近な文・節を使って連投するパターン。これは話し手が発話権を取られないように、フロアを保持しようとする動きとして見れます。2つ目に、両者が発話をしないパターン。双方が、「次、相手が投稿するだろう」と思っているのでしょうか、自分の投稿を控えている状況を観察することができました。これは対面会話でのフロアの運用にはなかなかみられない特徴ですね。おもしろいです。
発話コストが重要なメトリックスではないか
モバイルチャットにおけるフロア運用の特徴がどうして生じているのか、仮説を立ててみました。おそらく発話コストが起因しているのではないかと。モバイルチャット上でいう発話コストとは、つまり、タイピング(タップ入力)して、文を作って投稿を押す、という一連の作業を意味します。手の動きに労力を要しますし、時間も取られます。これは対面会話において口頭で話すときの動作とは完全に異なります。この発話コストの違いによって、フロアを維持して話を進めようとする傾向が強いのではないか、と仮説を立てています。2つ目のパターンの誰も発話をしない現象も理由は同じで、発話コストが高いので、発言の途中であれば、発言するのを待ってあげよう、という気遣いだと取れます。もう少し分析を進めて仮説を立証できれば、と思っています。
日本語における男女別の単語・文法・発音の違い
この記事は 学生エンジニア Advent Calendar 10日目の記事です。
前回の記事で、男性優位の社会によって、性差の違いによる言葉の運用のされ方が異なってくる、といったことを書きました。今回は日本の場合、具体的にどんな性差別の違いをみていこうと思います。文法・単語・発音の順にみていきましょう。
文法的違い
文法、というよりは語頭・語尾変化がほとんどなのですが、以下でみていきましょう。
男性 | 女性 | 分類 |
---|---|---|
〜だよな | 〜だよね | 終助詞 |
〜だぜ | 〜だよ | 終助詞 |
〜だろ | 〜でしょう | 終助詞 |
ぶん〜(ex: ぶんなぐる) | なぐる | 修飾 |
くそ〜(ex: くそやばい) | とても・かなり・めっちゃ | 修飾 |
〜しろ、〜やれ | 〜してね、〜してください | 命令形 |
「ぶん〜」や「くそ〜」といった程度表現は、あまり良いイメージを持ちません。これも男女優位社会がもたらした変種の1つではないでしょうか。トラッドギルの調査からもわかる通り、社会階層が低ければ低いほど、言語変種の割合が高くなり、かつ横柄な言葉が多くなっていく、という特徴とも一致しますね。
参考記事: 性差・階層別で比較してみるイングランド・ノリッチ地方における地域語の特徴からみえるもの - ことばの世界
単語的違い
いわゆる男言葉・女言葉ってやつですね。たくさんあるので、よく使うものだけをピックアップ。
男性 | 女性 |
---|---|
おれ・お前・おやじ・はら | わたし・あなた・お父さん・おなか |
発音的違い
続きまして発音をフォーカスを当ててみます。
男性
- [ai] が [ee] になる
「やばい -> やべえ」「こわい -> こええ」「かたい -> かてえ」 - [oi] が [ee] になる
「すごい -> すげえ」「おもしろい -> おもしれえ」
女性
- 子音が落ちやすい
- 撥音化・・・「わからない -> わかんない」
- 促音化・・・「あたたかい -> あったかい」
- 音節の脱落:「〜するところ -> 〜するとこ」
これはあくまで傾向としてある、ということでして、現代では男性が女性特有だった発音の特徴を持っている場合も多いです。そのまた逆も然り。
ユニセックス化する現代
性差による文法・単語・発音的違いをざっくりとみてきましたが、この性差の違いそのものが問題ではないか、という提起があったりもします。「男女間の格差」を軸にした問題提起ですね。その流れに沿ってなのかどうかは判別しがたいですが、現代においては言葉のユニセックス化が進んでいる部分もあります。例えば、女性が自分のことを「おれ」と言ったり、男性が「〜だわよね」なんて語尾にしたりする現象ですね。特に若い人に多いように思います。単純にLGBT界隈の話にも聞こえますが、日常のあらゆるシーンでこのユニセックス化が起きています。部活動をしている場合、特に耳にすることが多いと思うのですが、「〜ですね」の部分を「〜っすね」といったり。これ、男性がよく使う言葉のように思えますが、今は女性でも使いますよね。漫画などでも出てきます。
なので、これまで男性言葉・女性言葉として分離できたものが、これからは男女兼用で使われていくことになるのでしょう。それが良いか、悪いかは置いといて、言葉の運用の経緯というのは面白いところが多いですね。
他の人の論文とか資料
性差・階層別で比較してみるイングランド・ノリッチ地方における地域語の特徴からみえるもの
この記事は 学生エンジニア Advent Calendar 9日目の記事です。
日本でも、性差によって話し方や使う単語が違っていたりします。例えば、男性は傾向として「はらへった」、女性は「お腹すいた」なんて言ったりしますよね。どうしてこのような言葉の運用に性差が絡むのでしょうか。また、日本では感覚として薄いですが、階層別で話し方や使う単語、発音が異なったりすることもあります。イギリスなんかでは労働者階級(特にロンドン東部のコックニー地域)で話されるコックニーと言われる英語変種と上流〜中流階層が話す一般的なイギリス英語(RP)には大きな違いがあります。
トラッドギルの調査
ある標準語を軸とした場合、方言や階層、業界などの違いによって生まれる変化した言葉のことを vernacular language (言語変種)と言ったりします。1983年、トラッドギルはイングランド東部ノーフォークの州都、ノリッチという地域で、そこの言語変種を分析しました。"speaking"・"walking" などの単語に見られる発音 [ɪŋ] が性差・階層別で、どのような運用のされ方がされており、どんな違いと特徴があるのかの分析をしました。いわゆる標準語的な話し方をするのであれば、 〜ingの発音は [ɪŋ] となります。しかし、ノリッチで話し方を観察してみると、どうやら [ɪŋ] ではなく、[in] のほうで話されているようだということがわかりました。さらに男女別・階層別で同様にみていくと話され方に特徴ががあるのがわかったのです。 以下のグラフがその詳細を示しています。
グラフを解説致しますと、まず階層を5段階(1が最も身分が高く、5が低い)に分け、さらに階層ごとに性差別で数値を取っています。このグラフから読み取れる特徴として、最上位の階層では、言葉の崩れ(変種:今回は〜ingの[in]化)が少なく、階層が低くなるにつれ、変種の割合が多くなっているのがわかります。特に最上位の階層での男女間の差はわずか4であることから、男女の言葉の使い方の違いよりも、話し方そのものによってアイデンティティを表明される、という認識が強いことを示しています。また階層2をみてみますと、男女差で大きな開きがあります。女性のほうが、より一般的な話し方をしています。これは同階層の男性よりも階層1に近づけることにより、アイデンティティを表明している、と議論されている部分でもあります。
特徴からみえるもの
トラッドギルの調査でもそうであったように、実は西欧文化では女性は一般的な話し方(standard grammatical forms)をする傾向にあります。一方で、男性のほうは変種が混じった話し方をする傾向にあります。ではどうして女性はstandard grammatical formsを好み、男性はvernacular formsを好むのか。これはこれまでの男女間の格差が起因していると言われています。男性優位社会が長く続けば続くほど、standard grammatical forms を使っていた男性も、相対的に女性や下位の者に対して、より横柄に乱暴に振る舞うようになってきます。その過程の中で、丁寧でない言葉・文法などが生まれ、それが変種として浸透していく、という流れがあるようです。実は日本でも同じ構造があります。冒頭で述べたように、「おなか」という単語を、男性は「はら」、女性は「おなか」と呼ぶ傾向にあるのは、男性が変種を生んだからなのですね。日本における性差による言語変種の特徴はまた別の機会に詳しくみていこうと思います。
Overlapとは
発話の重複(overlap)とは、1人の話者が話している最中に、別の人が話し始め、発話が重複する現象のことを指す。ディスカッションなどの決められたテンプレートのもとで運用される会話などとは違い、特に自然会話などの特に話し方や順序が決められていなくて、ターンが不明瞭な会話形態で生じやすい。
どのようにOverlapが生じるのか
大きく分けて2つのパターンが存在する
- 現在の話し手が話している内容を意図的に遮り、別の人が話し始める場合
- TRP(transition relevance place)において、相手の発話の終わりと自身の発話の始めが一部分重なってしまう場合
さて、2. においては、現在話している人がさらに話をしたがっていて話者らがTRPを予期したとしても、依然として、そのまま話をしていた人が話し続け、さらに別の聞き手も話をしたくて話し始めたというという現象を指し、結果的にターンの取り合い(competition)が生じることになる。
遮り行為(interruption)と発話の重複(overlap)
overlapには否定的な側面と、肯定的な側面が存在する。否定的な側面とは、現在の話し手の発言権を遮って奪い取るという現象が会話の中で発生することである。つまりは、遮り行為を行ない、無理矢理相手の発言権を奪うことになるので、否定的に取られるのである。一方で、肯定的な側面も存在する。それは遮ってまでも自分の話がしたい、という会話の内容における熱心さや関心度の高さを示すための遮り行為を伴ったoverlapの場合である。
詳しくは
一般的にoverlapは男性よりも女性同士の会話の中で起きやすいとされている。またHolmes(1993)は短いoverlapを「あいづち」として分析し、このあいづちは会話を促す役割を果たしうる、と考えている。
遮り行為の分析
会話を分析すると「遮り行為」が節々でみられる。 この「遮り行為」とは一体なんなのか。これは1人の話者のターン時に、無理矢理別の人が発話を始めることであり、前者の発話権を奪ってしまう行為のことを指す。
遮り行為は、遮る人が発話が重なることを承知の上で実行し、発話権を奪い、話者が変わることなので、否定的に見られ、多くの場合、避けるべきだという認識が強い。しかし、実際にはそういったネガティブなパターンだけではなく、その他にも効果やバリエーションがいくつかある。
同時発話としての遮り行為
同時発話が「遮り行為」における研究で主要なテーマとなっている。これは1人の話者のターンの途中から別の話者が話を始めることによって起こることである(simultaneous talk)。この同時発話を対象した研究には大きく分けて2種類ある。
- 遮りを話者同士の力関係の観点から考察するもの
- 遮りを1種の会話スタイルとした観点から考察するもの
1.は、発言権を奪うことを意味し、相手に対する支配・力関係を明示するものである、という考え方で研究が進められている。この観点での研究で多いのは、発言権を奪うネガティブ要因と性差の違いに関係した会話であったり、役職(看護師と患者など)に応じた会話などが分析対象となりがちである。 2.は遮り機能が持っている役割を「会話の内容にどれだけ関心があるか、熱心か」といった質的要素が関連するだろう、という考え方のもと行なわれる研究になる。遮るほど、熱心なんだ、というアピールとして遮りが使われている会話を主に分析するので、どうしても定性的分析になりがちという側面がある。
様々な要因と結びつく「遮り行為」 その他にも、ポライトネス理論と結びつく遮り行為や、話者の持っている文化の違い、性差・年齢差などが密接に関わっているとされている。
会話における、あいづちの役割
あいづち(back-channel)とは、聞き手が話し手に対して送る短いメッセージのことであり、話者交替とは見なされないものとする。 1960年代以降、心理学や社会学では、対面の対話における聞き手の応答の仕方や非言語的振る舞いがどのように会話に影響し、社会的相互作用の中でどんな役割を持つのか、といった研究がなされてきた。
会話における、あいづちの重要性 Yngve(1970)は話者交替と関連させて、uh-huhなどの短いメッセージをあいづち(back-channel)と位置づけた。さらにDuncan and Fiske(1977)は、広い意味であいづちを捉え、あいづちは以下の表現を作ることが可能である、と論じた。
- Sentence-Completions:相手の発話に付け加えて文として完成させる表現
- Requests for clarification:内容について問いただす表現
- Brief-Statements:短いメッセージ
- Head Nods and Head Shakes:うなづきなど(非言語的振る舞い)
フロアとあいづちの関係性
さらに、Hayashi and Hayashi(1991)はEdelsky(1981)のフロアの概念とあいづちを結びつけて考えた。 フロアを、獲得・維持するための装置『メインチャンネル(Main Channel)』とし、それに対して、あいづちを相手のフロアを支える装置『バックチャンネル(back-channel)』とした。
最近の研究、例えば郭(2003)によると、ターンの冒頭に現れるあいづちはは聞き手から話し手への移行をスムーズに行なわせる機能があるとされており、また永田(2004)によると、あいづちには種類があり、発話者のメッセージの内容を理解・同意する意味を込めたあいづちと、発話権を獲得するためのあいづちがある、と述べられている。
隣接ペアとは何か
隣接ペアとは、対になった2つのターンから構成されるもので、発話のやりとりの分析の最小単位である。 例えば
Aさん:こんにちは。 Bさん:やあ、こんにちは。
このようなやりとりを隣接ペアと呼ぶ。 会話分析(Conversation Analysis)の分野では、Sacksらが先駆けとなり、多くの自然会話が分析されてきた。その結果として、いくつかのパターンを見いだすことができた。 Levinson(1983)は隣接ペアのパターンを以下のように区分した。
- 問い → 返答
- 挨拶 → 挨拶
- 招待・申し出 → 受諾・拒否
- 陳謝 → 軽減語
- 不服 → 謝罪
- 文句・不平 → 否定・詫び
- 要請 → 許可
- 情報の要請 → 情報の提供
隣接ペアの定義と特徴
隣接ペアを構成する要素は以下の3つとなっている。
- 隣接し、
- 異なった話者により発せられ、
- 第1部分と第2部分という順序があり、
- 型にはまっていて、第1部分が決まった2部分を求める
また4. において、第2部分は『招待 → 受諾』といったプラス(preferred)の応答と、『招待 → 拒否』といったマイナスの応答とがある。後者のほうは、断る理由などを述べることが多いので、前者よりもより複雑な応答になる傾向にある。
また前置き連鎖(pre-sequences)という特徴がある。これは別のことを目的としたときに、どう会話を切り出していくか、といったパターンのことである。例えば、『招待』に先立って、相手の都合を尋ねる連鎖『問い → 返答』(pre-invitations)はその一例である。
Aさん:今日ひま? Bさん:そうだね。やることないし、暇だ。 Aさん:一緒に海に遊びに行かない?
Aさんの本当の目的はBさんを海に誘うことだけども、突然誘うのをためらい、事前にBさんの都合を聞くことから始めた。このような隣接ペアを前置き連鎖とよぶ。
第1部分と第2部分の関係性
第1部分に対して、第2部分は多くの選択肢が存在する。例えば
Aさん:今何時?
という『問い』に対して、『返答』は
- 9時だよ - わからない - 時計みたらわかるよ - サンフランシスコは23時だよ - 何時だと思う?
など、あらゆる『返答』が可能だ。
また、第1部分が求めているもの(意図)に対して、意図的に違った意図の返答をすることも可能であるとTsui(1991)は述べた。
母:とっても部屋散らかっているじゃないの!(片付けてくれ、という『命令』が隠された『問い』が意図になっている) 子供:そうだね。(『返答』だが、『把握』を込めたものであり、『命令』に答えたわけではない)
以上が隣接ペアの基本的な概念でした。