ことばの世界

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話者交替におけるフロア(floor)という概念

話者交替について分析する際に、floorという概念を用いることがある。しかしこのfloor、概念自体が少々難しくてすんなり理解するのが難しい。今回はきちんと概念を整理し、理解するためfloorについて詳しくみていく。

Sacksによるfloorの提唱

1972年、Sacksという言語学者がfloorという概念を提唱した。Sacksによると

floorとは話者が持つ会話の主導権のことである。話すターン(turn)と同等の概念である。フロアを保有する・受け渡すとは話す権利を取得する・手放すと同等のことである。

となっている。

Edelskyによるfloor概念の改良

1981年、EdelskyはSacksの定義したfloorの概念に一石を投じ、概念を改善した。floorと発話のターン(speaking turn)は同一ではない、としたのだ。例えば隣接ペアが会話の中で生じると話者が変わる。このときfloorも変わっているのか?というとそうではないというのだ。つまり、発話の要求券を取得することと同じではなく、心的な話の主導権に関する概念なのだ、と定義した。

A:こんにちは。いい天気ですね。
B:こんんちは。そうですね。

という文をみてみよう。Aさんの挨拶に対してBさんも応答している。このとき、floor(会話の主導権)自体はAさんが所有しており、Bさんが発言していてもfloorはAさんに属する。Sacksによれば、この際floorはAさんからBさんに移っているはずなのだが、EdelskyによるとfloorはAさんが持ったままである。この点がSacksの考えとは異なっており、今はこのEdelskyの考えが主流になっている。

floorの概念をEdelskyの考えで話を進めると、場合によっては「共有されたfloor」が継続されることもあることがわかった。

floorに関する研究

興味があったら深堀してみるのも、またよし。

  • Edelsky(1981):性差に着目して会話のやりとりの特徴を分析した
  • Erickson(1982):floorとtopicの関係に注目して分析した
  • R.Hayashi(1991, 1996):大量のデータに基づき、floorをパターン化した
  • Simpon(2005):電子コミュニケーションでのやりとりを分析した