ことばの世界

言語学を勉強してます

言語の持つ社会的評価の影響

言語変種からみる社会階層と地域性

言語における標準変種と非標準変種 - ことばの世界で把握したように、社会階層によって同じ英語でも使っている言葉の文法や発音、アクセントが異なることがあり、それを変種と呼ぶ。変種には標準変種と非標準変種に分けることができ、それが相対的に上下関係にあるというのが現状である。上流階級の人々はどんな場面でも標準変種を使用する傾向にあり、皆が同じ話し方をするため、その人が属する社会階層は分かっても地域性を判断することはできない。階層が下がっていくにつれ、非標準変種を使う人々が増え、そこでは社会階層・地域性の両方を区別することができる。また標準変種は言い方や発音・文法にある程度統一性があるが、非標準変種は土地方言のため、地域によって表現の仕方や文法・発音が異なったりする。そのため、より地域性の判断がしやすいと言える。

ラボブによるアメリカでの実験

ラボブ(Lavob)は1966年にニューヨーク市で使われている言葉の大きな調査を実行した。もともとニューヨークの英語では母音の後の[r]の発音はされない方言であったが、第二次世界大戦後[r]の発音がされるようになったことを具体的に判明するためのものだった。(ちなみにこの現象は[r]の発音をすることで上の階級の威信をものにしたいという理由で導入されたと考えられる。)ラボブはニューヨーク市内の各階層が利用するデパートにて覆面調査を行い、[r]の発音がどれくらいされるのか調査した。結果として、富裕層・上層にいる人々は[r]の発音を頻繁にする傾向にあり、逆に下層階級にいる人ほど[r]の発音はされない傾向にあった。また聞き返しによる反復が生じた場合は[r]の発音の頻度が極端に上がったのが中層階級であった。これは中層階級の人が上層階級のように見られたいという心理的不安からくるものだと推測できる。

過剰矯正の発生傾向

ラボブは1991年の調査で中層階級に属する人々は言葉の持つ社会的評価に非常に敏感であることを明確にした。ラボブはニューヨーク市内の人々にカジュアルからフォーマルなテキストを読ませ、どれくらい標準変種を使う傾向にあるのか調べた。すると上層階級よりも中層階級に属する人がフォーマルなテキストを読む際に標準変種を意識する傾向にあったのだ。この現象を過剰矯正と言う。これは中層階級が言葉に対して社会的不安定さを持っていることを示した。これにより中層階級は下層階級の言葉を使いたくはないが、上層階級の人と同じように見られたいという欲求が存在し、そのため上層階級の人よりも標準変種に対する意識が高まったのだと言える。